これまでのAIブームとは「人工知能は人間を超えるか ディープラーニングの先にあるもの(松尾豊)」 要約【前編】

📕本の要約

今回は、2015年「角川EPUB選書」より出版された、松尾豊先生の著書、「人工知能は人間を超えるか ディープラーニングの先にあるもの」の要約をしていきます。

松尾豊先生
・日本のAI研究の第一人者。
・東京大学大学院工学系研究科人工物工学研究センター/技術経営戦略学専攻 教授
・1997年、東京大学工学部電子情報工学科卒業。2002年、同大学院博士課程修了。博士(工学)
・専門分野は、人工知能、ウェブマイニング、ビックデータ分析


2015年というと、かなり古い本に感じる方もいらっしゃると思いますが、今の研究も過去の積み重ねのもとで生まれているものであり、その時にわかっていることが詳細に説明されている名著だと思います。

序章:広がる人工知能ー人工知能は人類を滅ぼすか

まず序章では、「人工知能についての話題」が取り上げられています。

たとえば、人工知能技術の紹介としては、コンピューター将棋プログラム「ボンクラーズ」、クイズ番組で優勝した「ワトソン」、新レシピを考案する「シェフ・ワトソン」、「ロボットは東大に入れるか」プロジェクトの「東ロボくん」、、自動運転技術、人工知能搭載ロボット「Pepper」、高頻度取引(HFT)、「気まぐれ人工知能プロジェクト 作家ですのよ」、スマート家電など。

また、研究投資の加速についての話題や、人間が職を失う恐怖についても。

後の章で詳しく解説される、シンギュラリティ(技術的特異点)(人工知能が自分より賢い人工知能を作るようになったら無限に知能の高い存在が出現する)についても触れられています。

「人工知能についてのニュースや出来事の中には、『すでに実現したこと』『もうすぐ実現しそうなこと』『夢物語』が混ざっている。その違いを正しく見極め、生活や仕事に活かしてほしい。という、松尾先生の本著に込めた願いも書かれています。

第1章:人工知能とは何かー専門家と世間の認識のズレ

第1章は、専門家が持つ人工知能についての認識に関して、世間の認識と比較・対比しながら説明されています。

まず、松尾先生は多くの人の誤解として、「人工知能はまだできていない」と言っています。つまり、「人間のように考えるコンピューター」はまだできていない。人間の知的な活動の一面を真似しているだけで、人間の脳の仕組みはわかっていないしコンピューターが真似することもできないということです。

しかし一方で、「人工知能はできないわけがない」とも書かれています。人間の脳は電気回路と同じであり、電気回路を流れる信号により計算されます。計算可能なことは全てコンピュータで実現可能(「チューリングマシン」)であるということです。

さらに、専門家の人工知能の見方について、人工知能の定義は専門家の間でも定まっておらず、人工知能研究者の多くは知能を構成論的に解明しようと研究しているそうです。(構成論的「つくってなんぼ」↔︎分析的)また、人工知能とロボットは同じもののように認識されがちですが、異なるもので、簡単にいうとロボットの脳が人工知能に当たります。この2つの研究は重なる部分もあります。

次に、世間の人工知能の見方については、世の中で人工知能と呼ばれているものをレベル1〜4に分けています。

  • レベル1:単純な制御プログラム。「制御工学」や「システム工学」にあたる分野。
  • レベル2:古典的な人工知能。入力と出力を関係付ける方法が洗練されており、入力と出力の組み合わせの数が極端に多いもの。将棋プログラム、掃除ロボット、質問に答える人工知能。
  • レベル3:機械学習を取り入れた人工知能。検索エンジンに内蔵されていたり、ビックデータを元に自動的に判断したりするようなもの。入力と出力を関係付ける方法が、データを元に学習されている。
  • レベル4:ディープラーニングを取り入れた人工知能。機械学習をする際のデータを表すために使われる変数(特徴量)事態を学習する。

人工知能の研究分野では昔から、「強いAI」「弱いAI」という議論があり、その点についても解説されています。

  • 強いAI:人間の心や脳の働きは情報処理であり、思考は計算である。それらを解明し、工学的に実現する
  • 弱いAI:心を持つ必要はなく、限定された知能により一見知的な問題解決が行えればよい

ここまで第1章では、人工知能とは何かの整理が行われました。ここから、いよいよ人工知能の研究についてに話が移っていきます。

第2章:「推論」と「探索」の時代ー第1次AIブーム

第1章で「人工知能はまだできていない」という専門家の認識の説明がされました。それでは、なぜ「まだできていない」のでしょうか。それを紐解くための人工知能の歴史がここから説明されます。まず、第2章では、第1次AIブームの振り返りから。

第1次AIブームは1950年代後半〜1960年代に起きました。コンピュータで「推論・探索」することで特定の問題を解く研究が進みました。しかし「トイ・プロブレム」が解けても複雑な現実問題が解けないことがわかり、ブームが冷めました。

人工知能という言葉が初めて登場したのは1956年のダートマスで開催された伝説的なワークショップです。ジョン・マッカーシー、マービン・ミンスキー、アレン・ニューウェル、ハーバート・サイモンという著名な4人の学者が参加しました。

第1次AIブームで中心的な役割を果たしたのが「推論」や「探索」の研究です。探索木(場合分けを繰り返し行うこと)により答えを見つけていました。

探索木を用いると、ロボットの行動計画を作ったり(前提条件、行動、結果を記述するSTRIPSが有名)、相手のいるゲームに挑戦したり(チェス、オセロ、将棋、囲碁など)することができます。

しかし、現実の問題を解くことができないということが、次第に明らかになりました。

非常に限られた状況の問題しか解けず、つまりトイ・プロブレムしか解けないことが分かり、1970年代に人工知能研究は一度下火になります。

第3章:「知識」を入れると賢くなるー第2次AIブーム

1970年代に冷めてしまった人工知能研究が、再び勢いを取り戻し、産業領域への応用も始まったのが第2次AIブームです。

第2次AIブームは1980年代に起きました。コンピュータに知識を入れると賢くなるというアプローチが全盛を迎え、エキスパートシステムという実用的なシステムがたくさん作られました。しかし、知識を記述、管理することの大変さが明らかになり、ブームが冷めました。

エキスパートシステムとは、ある専門分野の知識を取り込み、推論を行うことで、その分野のエキスパートのように振る舞うプログラムです。

例えば、「MYCIN」というプログラムは、伝染性の血液疾患の患者を診断し、抗生物質を処方するようにデザインされました。

他に、生産・会計・人事・金融などのエキスパートシステムも作られました。

しかし、エキスパートシステムには「大量の知識をコンピュータに入れるのが大変」という課題がありました。コンピュータは常識レベルの知識を持ち合わせていないので、広い範囲の知識を扱うことができません。普段私たちが意識することはあまりありませんが、実は人間の常識レベルの知識は膨大だったのです。

そこで、知識を正しく記述するためのオントロジー研究(知識を書くための仕様書の研究)も進みました。

オントロジー研究にはヘビーウェイト・オントロジーライトウェイト・オントロジーの二つの流派が生まれました。有名な人工知能「ワトソン」は、ライトウェイト・オントロジー研究の究極の形です。ライトウェイト・オントロジーとは、コンピュータにデータを読み込ませて自動で概念間の関係性を見つけよう、という研究です。

ここまで第2次AIブームでは、「知識」を入れることで人工知能の能力向上を図ってきました。しかし、プログラムの性能は上がっても質問の「意味」を理解しているわけではないのです。このような、コンピュータが知識を獲得することの難しさを、人工知能の分野では「知識獲得のボトルネック」と言います。単純な1つの文の翻訳でも、一般常識がなければうまく訳せないのです。

人工知能における難問の一つとして、「フレーム問題」も知られています。あるタスクを実行するのに、「関係ある知識だけを取り出してそれを使う」ことが難しいということです。人間ならごく当たり前にやっていることなのですが。

フレーム問題に並ぶ難問として、「シンボルグラウンディング問題」もあります。記号(文字列、言葉)をそれが意味するものと結びつけることができないという問題です。

このように第2次AIブームでは、知識が主役となって発展しましたが、同時に知識を記述する難しさがわかってきました。その間、日本では「第五世代コンピュータ」というプロジェクトが立ち上がりました。バブル時代に通商産業省(現在の経済産業省)が主導した巨大プロジェクトです。インターネットの登場前でありデータが不足していたために頓挫してしまったが、先進的な目標を掲げたプロジェクトであった。(ここの内容は松尾先生の強い思いを感じられるので、ぜひ原文を読んでいただきたいです。)

第2次AIブームでは知識を入れることでコンピュータは賢くなりましたが、知識を書き切ることはほとんど不可能であることが次第に明らかになりました。フレーム問題、シンボルグラウンディング問題からも人工知能の実現は疑問視されるようになり、第2次AIブームが終わりました。

前編まとめ

以上が、「人工知能は人間を超えるか ディープラーニングの先にあるもの」の要約の前編になります。

人工知能について全くの素人が読んでも非常にわかりやすい本です。気になった方はぜひ原文をご一読ください。


中編では、第3次AIブームについて要約していきます。機械学習とディープラーニングによるブレークスルーという、非常にドラマチックな内容となっています。

一つの記事で完結する予定でしたが、想定よりも長くなってしまいましたので、前編・中編・後編に分けることとしました。引き続きお付き合い頂けますと幸いです。

コメント

タイトルとURLをコピーしました