AIの今後と産業・社会への影響「人工知能は人間を超えるか ディープラーニングの先にあるもの(松尾豊)」 要約【後編】

📕本の要約

この記事は、2015年「角川EPUB選書」より出版された、松尾豊先生の著書、「人工知能は人間を超えるか ディープラーニングの先にあるもの」の要約の後編になります。※前編中編を先にご覧いただくことを推奨します。

前編はこちら👉https://www.obgyneng.com/人工知能は人間を超えるか ディープラーニング/
中編はこちら👉https://www.obgyneng.com/現在のaiブームについてー人工知能は人間を超える/


今回は、第6章・終章の、AIの今後の展望と産業・社会に与える影響について、要約していきます。非常にメッセージ性の強い内容となっています。

第6章:人工知能は人間を超えるかーディープラーニングの先にあるもの

ディープラーニングの意義についての評価は、専門家の間でも大きく2つに分かれています。

  1. 機械学習の発明の一つに過ぎず、一時的な流行にとどまる可能性が高い(機械学習の専門家に多い考え方)
  2. 特徴表現を獲得できることは、本質的な人工知能の限界を突破している可能性がある(機械学習よりも広い範囲を扱う人工知能の専門家に多い捉え方)

本書は2の立場に立っており、その理由としては、「専門家は往々にして技術の可能性を見誤る」ということ、また「これまでの歴史的経緯からも特徴表現学習の壁を突破できる意義は極めて大きい」ということ、が挙げられています。

今後の特徴表現学習を踏まえた人工知能技術は、以下のようなロードマップで「今までの人工知能の研究がなぞられるような発展をしていくのではないか」と松尾先生は予想しています。

画像特徴の抽象化ができるAI
マルチモーダルな抽象化ができるAI(動画、音声、圧力なども抽象化)
行動と結果の抽象化ができるAI(自らの行動データとその結果の観測データも抽象化)
行動を通じた特徴量を獲得できるAI(試行錯誤の連続的な行動データも抽象化)
言語理解・自動翻訳ができるAI
知識獲得ができるAI

こうして人工知能が発展しても、人間と同じような概念を持ち、思考をし、自我や欲望を持つわけではないです。
したがって、コンピュータが作り出した「概念」が人間が持っていた「概念」とは違うというケースが起こりうります。
しかし実際は、ドラえもんのような「人間とそっくりな概念を持つ」人工知能の必要はあまりなく、予測能力が単純に高い人工知能が出現するインパクトの方が大きいです。

人工知能が自分の能力を超える人工知能を生み出すことができるようになったら圧倒的な知能がいきなり誕生するという「シンギュラリティ」は、松尾先生の考えでは現時点では夢物語です。
いまディープラーニングで起きている「世界の特徴量を見つけ特徴表現を学習する」ことです。それは人工知能が自らの意思を持ったり人工知能を設計し直したりすることは天と地ほど距離が離れています
「人間=知能+生命」であり、知能をつくることはできても生命をつくることは非常に難しいのです。

そうはいっても「人工知能に対する社会的な不安に専門家は応えなければならない」、ということで、人工知能学会では2014年に倫理委員会が立ち上がりました。人工知能の普及が短期にもたらす社会や個人への顕著な影響について、人工知能学会倫理委員会で議論されています。

以上を踏まえて最後の章では、具体的に社会や産業がどのように変わっていく可能性があるか、その中で企業・国はどう動いていけばいいのか、が述べられていきます。

終章:変わりゆく世界ー産業・社会への影響と戦略

人工知能で引き起こされる変化は、環境から学習し予測しそして変化に追従するような仕組みである「知能」が人間やその組織から切り離されるということです。
これまで社会の中で人間に付随して組み込まれていた学習や判断を、世界中に分散して設置できることで、よりよい社会システムをつくることができます。

人工知能の産業への波及効果を、第5章の今後の人工知能の進展のロードマップのナンバー(①〜⑥)に対応して示します。

画像認識→広告、画像診断、ネット企業
マルチモーダルな抽象化→パーソナルロボット、防犯、ビックデータ活用企業
行動と結果の抽象化→自動車メーカー、交通、物流、農業
行動を通じた特徴量を獲得→家事、医療・介護、受付・コールセンター
言語理解・自動翻訳→通訳・翻訳、グローバル化
知識獲得→教育、秘書、ホワイトカラー支援

こうした変化は一気に起きるわけではなく、まず研究開発が先行し、できるようになったというニュースが広がり、そこからしばらく遅れてビジネスに展開されます。

「人工知能が人間の職業を奪うのではないか」という危惧に対しては以下のような議論がされています。

  • これまでも科学技術の発展のたびになくなる仕事もあったが、代わりに新しい仕事ができてきたので心配ない。
  • 一方で、人工知能の発展はこれまでとは性質の違うもので、より多くの人に影響を与えるかもしれない。それに伴い貧富の差が広がる。これは富の再分配で是正するしかない。

では、具体的にどのような仕事に変化が生まれるのか、短期から長期にかけての人の仕事の移り変わりを予想していきます。

  • 短期的(5年以内)にはそれほど急激な変化は起きない。ただし、会計や法律といった業務の中にビックデータや人工知能が急速に入り込むかもしれない。
  • 中期的(5年〜15年)には生産管理やデザインといった部分で人間の仕事がだいぶ変わる。
  • 長期的(15年以上先)には、例外対応まで含めて、人工知能がカバーできる領域が増えてくる。この段階で人間の仕事として重要なのは「非常に大局的でサンプル数の少ない、難しい判断を伴う業務」で経営者や事業の責任者のような仕事。また、「人間に接するインターフェースは人間のほうがいい」という理由で残る仕事も。セラピスト、レストラン店員、営業。

以上をまとめると、短期から中期的には、データ分析や人工知能の知識・スキルを身につけていくことが重要ですが、長期的にはそれらの仕事は人工知能がやるようになるのでむしろ人間対人間の仕事に特化した方が良いということになります。

また、人間とコンピュータの協調により人間の創造性や能力がさらに引き出されることになる可能性もあります。そうした社会では生産性が非常に上がり、労働時間が短くなるために、人間の「生き方」や「尊厳」、多様な価値観がますます重視されるようになるかもしれません。

※ここで、人工知能が生み出す新規事業について、米国ブルームバーグ社のアナリストによる「世界中の人工知能ベンチャーをまとめた図」を元に紹介されています。要約では割愛しますので、気になる方はぜひ本書を読んでみてください。

今後、人工知能は産業競争力の中心的役割を果たすことが想定されますが、その一方で独占されることに警戒する必要もあります。

人工知能は「知能のOS」と言うことができるかもしれません。
特徴表現学習などの学習アルゴリズムの基盤があれば、アプリケーションの部分での機能追加はそれほど難しくはないのです。逆に、特徴表現学習の部分を特定の企業に握られたりブラックボックス化されたりすると厄介です。データをたくさん持っている企業が高いレベルの特徴表現学習の技術も手に入れると、他の企業もそこにデータを集めざるを得なくなります。
そのため、いったん差がつくと逆転するのは困難となるのです。

日本がこの先、人工知能分野で国際的な産業競争力を得るには以下のような課題を解決する必要があります。

短期
①データ利用に対する社会的な受容性:日本では個人情報やプライバシーを強調するあまり、ビックデータの利用を過度に警戒・抑制する論調が根強い
②データ利用に関する競争ルール:データ利用に関する法整備が遅れている

中長期
③モノづくりを優先する思考:機能先行のロボット開発が進められているが、人工知能はピンとこない人も多い
④人レベルAIの懐疑論:人工知能が夢物語だと思っている学会内・業界内の悲観論
⑤機械学習レイヤーのプレイヤーの少なさ:国内で人工知能技術に投資できる企業が少ない

一方で、日本は古くから人工知能研究に取り組んでおり、人材が豊富であるという強みもあります。

アルゴリズムの開発競争段階を超えると、データを多く持っているところほど有利な世界になってしまいます。そうなる前にアルゴリズムの開発競争段階でアドバンテージを持つ必要があります。

最後に本書は、読者への以下のメッセージと研究を継続してきた先人への感謝で終わります。

  • 「それぞれの仕事や生活の中で、人工知能をどのように活かしていけばよいか、活かすことができるのか」、「人工知能によって、この社会がどう良くなるのか、どうすれば日本が輝きを取り戻すのか」を考えてほしい
  • そして人工知能の現状と可能性を正しく理解した上で、人工知能を活用してほしい

まとめ

以上が、「人工知能は人間を超えるか ディープラーニングの先にあるもの」の要約とになります。

人工知能について全くの素人が読んでも非常にわかりやすい本です。気になった方はぜひ原文をご一読ください。


内容の詰まった本で、とても長い要約となりました。
最後までご覧いただき、ありがとうございました。

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